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■ 地上に咲いた天の花

 いま、憶い出していることがある。 

 

 新潟の片田舎の中学校に入学した日のことだ。

その日、担任となった先生が、入学式で桜が咲いているのは珍しいから

皆で外に出て、校庭にある桜の木を背景に写真を撮ろう、という場面があった。

 

 撮った写真がモノクロであったため、桜の花びらは白く映えている。 

当時、桜の咲く時期に一喜一憂するはずもない。

ただ漠然と、初めて着た学生服姿で、無表情でカメラに収まった。

 

 それから数年を経て社会人となり、5月連休の際に何度か帰省を

重ねてみると、情けないことにようやく気付いた事が、ひとつだけあった。

例年、田舎の桜の開花時期は遅く、4月下旬から5月上旬なのだ。 

 

通常、田舎の入学式においてはまだ、桜の蕾は閉じたままだ。

 

 3月下旬に埼玉の桜は開花して、4月上旬には散り果てる。

それから5月、再び田舎で桜を目にする事がささやかな楽しみになっていた。

1年で2度、しかも、地上に残雪を携えた桜木は花鳥風月でもある。

 

 しかしなぜ、あの入学式の年、桜の開花がとても早かったのか。

季節のいたずらにせよ何か釈然とせず、何の手がかりもつかめないまま

無常にも月日だけは早く過ぎ去ってしまった。

 

 特にここ数年、5月に咲いている桜を見上げてみると、当時の記憶が

まざまざと甦るのと同時に、疑問だけは膨らんでいた。

なぜにあの時だけ、桜は早く咲いていたのだろうか、と。

 

 そんなある日のこと、地上に咲いた天の花、という小見出しのついた本を

偶然手にしてみた。 なにか、心に引っかかるものを感じたから..

その場で何度か呟いてみたら、この入学式の写真の情景と、ついに重なった。

 

 たった1枚の写真と、ささやかな一言が永く記憶に残ることがあるものだ。

されば、一瞬で長年の疑問が解決出来る、というのも本当の事かもしれない。

 

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